紀伊半島縦断バス紀行


<写真は特記以外すべて2005年10月29・30日、2006年2月/管理人撮影>


○熊野へ、そして北山峡へ

 紀伊半島縦断の旅、2日目の朝を迎えた。旅館でのんびり朝食をとり、8:50発の熊野交通バスで川湯温泉をあとにした。車内は観光客で席が半分ぐらい埋まる。

熊野交通

 川湯温泉からは熊野交通バスに乗車
<川湯温泉>



 再び熊野川沿いに出たバスは168号線をひたすら走る。途中の停留所で地元客をひろいながら、バスは1時間ほどで新宮駅へと到着した。

 新宮駅からは今日のメインとなる北山峡経由の奈良交通バスに乗車することになる。現在は八木駅から十津川経由で新宮駅に到達するバスのみだが、以前は北山峡経由と称して169号線を経由し熊野市を経て新宮駅に至る特急バスも存在した。しかし、169号線沿線は観光資源に乏しかったのか、利用者が少なく湯盛温泉杉の湯で乗換えとなったあと廃止となっている。今は普通の各停便が、湯盛温泉杉の湯〜池原・上桑原と河合・池原〜新宮駅の系統で生き残っている。特急がなくなってからは湯盛温泉杉の湯〜新宮駅間の乗継が不可能となっていたが、最近のダイヤ変更により新宮駅からの片道ではあるが、池原・湯盛温泉杉の湯での乗換えで八木駅まで到達が可能となっている。

 一昨年、オフ会でかつての北山峡ルートをたどったが、山あり谷あり海ありと景色に変化が富んでいてすばらしい旅路だった。今回、再びこの北山峡ルートをたどることができるということで非常に楽しみだ。

 北山方面の奈良交通バスは十津川経由のバスとは違う場所にのりばがあり、熊野交通のバスのりばを間借りするような形になっていた。そこには奈良交通の小さな時刻表があり、わずか2便の時刻が掲載され、運行系統図があった。われわれが乗る10:45発の便は池原行きだが、池原で乗り換えて湯盛温泉杉の湯、さらに乗り継いで八木駅までいけるためなのか[杉の湯経由八木行]と表記されている。また運行系統図は八木駅までの停留所名がずらっと表記され、まだ北山峡ルートが健在であることを静かに主張していた。よく見たら北山特急が健在だったころの運行系統図をそのまま利用しているようだ。時刻表や系統図から南紀営業所の心意気が伝わってくるようだった。

 新宮駅前のバスのりばにあった時刻表と路線図。
かつて特急バスがあったころのもの。
<新宮駅>

新宮駅時刻表
新宮駅で熊野交通と並ぶMR99号車

 新宮駅で発車を待つMR99号車
<新宮駅>



 10:35ごろ、[池原]の行き先を出した奈良交通のMR和歌山99号車が着車。早速乗り込む。車内に入ってちょっと感動した。幕式の運賃表示機なのだが、なんと懐かしい。かつて吉野にいた旧十津川仕様のBUなどが装備していた、100番まで表示できるタイプの運賃表示機だった。おそらく北山峡経由の特急が使用していたものだろう。こんなところにかつての北山特急の面影が残っているとは思わなかった。

 定刻になり、MRは新宮駅を発車。車内放送は、かつて奈良交通では当たり前だった南海太郎氏の名調子である。
 駅前の商店街を抜け、国道42号線へ。そして新熊野大橋を渡り、熊野川を越え和歌山県から三重県へと入った。

 途中桃崎までは三重交通バスも運行している。奈良交通便は途中熊野市駅までは急行運転をしており、いくつか停留所を飛ばしながら運転する。南海太郎氏の放送も「熊野市駅前までは急行でございます。」と案内している。バス停の標柱は三重交通と同じ場所にあるところについては、三重交通のものを共用している。

 阿田和あたりから海岸沿いを走る。進行方向右手にときどき熊野灘が見えるようになる。この海岸は七里御浜というらしい。お盆になれば毎年大規模な花火大会もあるようだ。

国道42号線をゆく

 国道42号線をゆく
<阿田和付近>

 熊野灘を見ながら走る
<阿田和付近>

熊野灘を見ながら走る



 しかし奈良交通の路線バスに乗り、南海太郎氏の名調子を聞きながら海を見るとは・・・ほかの奈良交通路線では味わえない、非常に贅沢なひと時である。あとで運転者の方と雑談したのだが、この熊野線は休止の候補に上がっており、どうなるかわからないという。運転者の方は、いいところを走っているし、地元の方の利用もあるのでなくさないでほしい、何とか観光客の利用を促進できないものだろうか、とおっしゃっていた。

 新宮駅から約40分ほどで熊野市駅到着。三重交通と名称をあわせているのか放送は「熊野市駅」ではなく「熊野市駅『前』」といっている。お年寄り1名乗車。少し休憩したあと、池原に向けて出発。再び国道42号線を走る。

 鬼ヶ城のトンネルを抜けたあと、途中、42号線からそれて旧道へ。大泊の集落に立ち寄り、また42号線へと戻る。そして、峠越えへ挑む。しばらくカーブと急勾配が続き、MR99号車はエンジンをうならせながら必死に峠道を走る。後続の車に進路を譲りつつ、峠を越えた。後ろのほうを見ると熊野灘ははるか下のほうになり、遠ざかっていき、やがて見えなくなった。

 紀伊佐田で左折して、国道42号線と別れ国道309号線へ。ここから紀伊山地の山越えである。佐渡から先は自由乗降区間。途中の桃崎までは三重交通と同じくどこでも降車できる。

 途中の乗降がないので、時間をもてあますのかバスはゆっくり走っているが、それでも早発しそうになるらしく、途中の停留所で時間調整しながら進む。

湯の谷口

 時間調整のため湯の谷口で停車中
<湯の谷口>



 桃崎の手前から169号線となり、いよいよ県境へ。藤後口を出ると民家は見当たらず、ひたすら山の中を走るだけ。そして県境を越え、三重県から奈良県へと戻ってきた。小口橋・小井隧道口と進むが、周りに民家もないので乗降なし。小井隧道口からいったん県道へそれて下北山村の中心部(?)を通っていく。まとまった集落があり、佐田で熊野市駅からの乗客が下車。バスは私たちだけを乗せて、池原へ向けてのんびり走る。

 池峰公園からカーブの続く狭隘な下り坂となる。かつてはこの道を北山峡経由の特急バスも走っていたようだ。途中ヘアピンカーブもあり、かなり難易度は高い。あとから聞いた話では、この区間はそのヘアピンカーブがあるため、12mのバスは通過させないらしい。カーブがきつくて狭隘なため12m車だと曲がれないんだとか。

 連続カーブ区間を下りきると視界が開けて池原の集落と池原ダムの堤防が現れた。程なく終点の池原の車庫に到着。バスはそのまま車庫の敷地内に入ってバックで車庫入れして降車となった。ここで14:39の湯盛温泉杉の湯行きまで約1時間半の休憩となる。その間に、近くにあるきなり館まで歩いていき、昼食をとった。あとで運転者さんから聞いた話では、きなり館よりも手前にある中華料理店や食堂のほうがいいとおっしゃっていた。

○さびしい"新線"区間をゆく

 先ほど乗ってきたMR99号車がそのまま池原14:39発の湯盛温泉杉の湯行きとなり、私たち2人だけの乗客を乗せて発車。峠道をくねくねと登っていき、池原ダムの堤防のそばへ。そこから短いトンネルをくぐったあとは、しばらく池原ダムのダム湖を見ながら北上を続ける。沿線に民家はほとんど見られない。山と濃い色をしたダム湖があるだけだ。人気のない停留所をバスは淡々とひとつづつたどっていく。

 河合に近づくと大きな集落が出てくる。上北山村の中心、河合地区だ。役場や郵便局がここにある。小さな車庫があり、河合発着のバスもある。道の駅や日帰り温泉、ホテルもある。でも乗降はなかった。

 河合を出て、5分ほど走ると、また集落があり下田という停留所が現れる。下田を出ると、また民家がなくなり、いよいよ伯母峰越えとなる。冬になるとこのあたりから気候が変わり、積雪したり凍結したりすることもある。それでもバスは毎日走らなければならないから運転者は大変だ。

伯母峰越え

 伯母峰トンネルを目指して峠道を行く
<高田和−和佐又口間・2006年2月撮影>

 和佐又口で登山帰りの人が乗車
正面に見えるのが新伯母峰トンネル
<和佐又口・2006年2月撮影>

和佐又口



 峠道を上がりきると新伯母峰トンネルへ。照明が少ない昔のトンネルで、結構距離が長く出口が最初見えないので、少し不気味にも思える。このトンネルを境にして熊野川水系と吉野川水系に分かれる。トンネルを抜けると小さな店があり、わさび谷のバス停があった。ここから川上村となる。

新伯母峰隧道わさび谷側

 新伯母峰トンネルを抜けると積雪が
<わさび谷・2006年2月撮影>



 今度は下り坂となり、道路もきれいになる。この先は最近旧道から付け替えられた区間で、非常に走りやすくなっている。速度の速い自家用車が時々追い越していく。169号線の名物(?)であるループ線を通り、一気に高度を下げる。大迫ダムで付け替え区間はいったん終わる。

 169号線名物、ループ線を行く
<山本茶屋−伯母谷口間・2006年2月撮影>

ループ線



 169号線をいったんはずれ、柏木の集落へ入った。何度か訪れているが、ここだけは昔と雰囲気が変わらず、時間が止まってしまっているかのようだ。旧柏木支所の前の転回場に入り、対向の入之波温泉行きを待った。運転者もちょっと休憩。

柏木付近

 20年前から時間が止まっているかのようだ
どこか懐かしい感じがする
<不動屈−柏木間・2006年2月撮影>



 入之波行きが通過したのを確認して、杉の湯へ向けて発車。169号線へ戻る。今度は大滝ダム建設に伴う付け替え区間となり、快適にバスは走る。この辺を走るといつも思うことだが、道路がよくなるのとは逆に、路線バスが衰退していくのが残念でならない。まあそれだけ利用者が減っているということで仕方のないことなのだが・・・。

 16時過ぎ、終点の湯盛温泉杉の湯に到着。新宮駅から昼食をはさんで約5時間の旅は長いようであっという間だった。友人は疲れてしまっているようだったが・・・。このあとさらに八木駅行きに乗車し、八木駅に着いたのは18時過ぎ。新宮駅から所要約7時間の旅であった。

 熊野灘から吉野山地へ、奈良交通の路線では珍しく海を走る路線である熊野線の旅は、心に残るものであった。時間的な距離が遠く、なかなか訪れることが難しいが、時間が許せばもう一度訪れてみたいと思う。




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