在来線特急「つばめ」最後の冬を駆ける




 2004年1月18日の旅日記です。

西鹿児島駅に到着したつばめ1号
◆西鹿児島駅に到着したつばめ1号




○新幹線開業と引き換えに

 福岡県と鹿児島県を鹿児島本線経由で結んでいる、特急「つばめ」は現在14往復運行され、九州の北部と南部を結ぶ重要な交通機関のひとつとなっている。

 前身は、現在熊本どまり(一部豊肥本線の水前寺・肥後大津まで乗り入れ)となっている「有明」である。長らく、鹿児島本線の特急といえば、485系「有明」であったが、民営化後、まずハイパーサルーン・783系を製作し、この有明に投入。平成4年には、斬新な形の特急車両787系が誕生。これを機に有明は、福岡-熊本間の特急とし、福岡-鹿児島間を結ぶ速達タイプの「有明」を「つばめ」と改称するとともに、787系を「つばめ」に投入した。

 あれから、12年が経過し、今年3月新八代-鹿児島中央間に九州新幹線が開業する。それに伴い、並行する鹿児島本線は廃止となり、第3セクターの「肥薩おれんじ鉄道」に移管される。同時に、西鹿児島行き787系「つばめ」も廃止となり、在来線特急がこの区間を走ることはなくなる。

 今回、運のいいことに仕事で熊本に行く所用があり、最後の「つばめ」の姿を見ることができた。

○熊本駅朝8時

 宿泊先の肥後大津発655の普通列車に乗車し、熊本駅改札前に降り立ったのは740過ぎ。今日は大学のセンター試験が行われるようで、駅前からは熊本大学へ向かう九州産交の臨時バスが発車していた。

 それにしても寒い。よく冷え込んだ。九州は温かいというイメージがあったが、これでは奈良と変わらない。熊本は盆地になっている関係で、冬はよく冷え込むそうである。

 とりあえず、みどりの窓口で期間限定発売の「特急つばめフリーきっぷ」を購入。B6のはがきと同じ大きさで、表は東シナ海に沿って走る787系の写真、裏は歴代の「つばめ」の写真が印刷され、あとで持ち帰って記念になるようにしてある。値段は、10000円。福岡市内から八代-西鹿児島間のフリー区間内の往復きっぷとなっており、特急の普通車自由席に乗車できる。

 駅前のミスドで軽い朝食を済ませ、1番ホームでつばめ1号の到着を待った。

○第1M列車「つばめ1号」

 自由席を待つ列は、各車両とも5、6人はいたと思う。僕も5号車の自由席の列に加わる。

 820、博多方にヘッドライトの光が現れ、特急「つばめ1号」の到着である。787系の7両編成だ。グレーの落ち着いた雰囲気の車体が熊本駅1番ホームに滑り込んだ。博多方面からの乗客が多数下車する。

 5号車の中央に落ち着く。5号車に関しては、座席は半分ほど埋まっているという感じで、ちょうどいい。

 各座席には、つばめのロゴとつばめマークの描かれた車内販売のメニューが備え付けてあるのがよい。2、3年前までは、4号車でビュッフェも営業し、「つばめレディ」と呼ばれる客室乗務員までいたのだが、現在は廃止となっており、ビュッフェだった部分は普通車の座席に改造されているようだ。

 ワゴンサービスの女性係員から、八代到着前に右手に九州新幹線の高架が見えてまいります、と案内放送が入る。ほどなく、右のほうに高架線が現れ、鹿児島本線からその高架線上にできている駅に新線が分岐していた。新幹線の高架は、鹿児島本線をオーバークロスし、左手のほうに伸びている。交差部分には新駅の準備がされていた。多分これが新八代駅なのだろう。

 八代停車。ぱらぱらと乗降がある。日奈久付近で、八代湾沿いに出る。いい天気になり、天草諸島がよく見える。

日奈久-肥後二見間を行くつばめ(撮影日:2004年1月12日)
◆日奈久-肥後二見間を行くつばめ(撮影日:2004年1月12日)


○八代以遠はローカル線の雰囲気

 内陸に入り、佐敷停車。ホームのかさ上げ工事中で、肥薩おれんじ鉄道の開業準備なのだろう。いつの間にか単線になっており、駅もなんとなくひなびたローカル線の雰囲気が漂う。

 実は現在走っている区間は、後にできた鹿児島本線で、その昔は、八代から分岐している肥薩線が鹿児島本線を名乗っていたようである。現在の肥薩線ルートが全通したのが1909(明治42)年で、現在の鹿児島本線が開通したのが、1927(昭和2)年のことだった。ちなみに九州自動車道は、ほぼ肥薩線ルートを取っている。

 肥薩線がその昔、現在の鹿児島本線に幹線の座をゆずったように、今度はその鹿児島本線も、3月開業の九州新幹線にその幹線の座をゆずろうとしている。

天草諸島を見ながら
◆天草諸島を見ながら(上田浦-肥後田浦間 撮影日:2004年1月12日)


 熊本県側の最後の停車駅は水俣。熊本よりに、新幹線の新水俣駅が完成間近だ。かつて、ここから肥薩線の栗野まで山野線というローカル線が分岐していた。ループ線もあったそうだが、第2次特定地方交通線に指定され、民営化後の昭和63年に廃止となっている。

 鹿児島県に入り、出水到着前になると、また女性係員から観光案内放送が入った。出水のツルについての案内で、冬の間、およそ5ヶ月の間、ツルはこの出水で滞在し、その後暖かくなったらシベリアへと渡っていくのだという。

新幹線開業準備が進む
◆新幹線開業準備が進む(川内 撮影日:2004年1月18日)


 出水には、肥薩おれんじ鉄道の新車が留置されており、第三セクターへ移管される日が近づいていることを実感させられる。次の西出水で上りのつばめと交換するため運転停車。

 阿久根を出ると、再び海岸沿いに出た。上川内あたりまでのあいだ、青い東シナ海をのんびり眺めていた。

○さようなら787系「つばめ」

 左から新幹線の高架が近づいてきて川内到着。肥薩おれんじ鉄道の車両基地があり、先ほど出水で見たのと同じディーゼルカーが多数留置されていた。この辺から鹿児島方面への区間利用もあり、自分の乗っている5号車にも、数名の乗客が乗ってきた。

 川内からは鹿児島方面への区間列車が1時間に1〜2本運行されており、鹿児島への人の流動が多いことが伺える。串木野・伊集院と停車すると、次はもう終点の西鹿児島である。鹿児島市内の町並みが見えてくると、女性係員からの案内が入る。鹿児島の観光案内のあと、最後に、この先もお気をつけて行ってらっしゃいませ、と締めくくった。

 つばめ1号は、新しくなった西鹿児島駅に定刻に到着。熊本から約2時間半の旅路であった。

 3月12日、在来線特急つばめは、その役目を終え、九州新幹線へ引き継がれる。車両こそ、博多-八代間の「リレーつばめ」としてそのまま運行されるが、八代以南で787系「つばめ」の雄姿を見ることはもうできない。

 僕はホームでもう一度、その雄姿をしっかりまぶたに焼き付けた。



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